夢見ることやめない.

脳内、お花畑

世田谷ラブストーリー

 

 

 

 ちゃんと、言うから


 今度はちゃんと 言うから、さ。

 

 

 

 

 

 


 「駅ってこっちだっけ」


 
 「わたし方向音痴だから・・・」

 

 

 旧道沿いの居酒屋を 出てから僕が無口なのは

 

 


 「ねえ、聞いてる?」


 「うぇっ聞いてる聞いてる」

 

 

 今日 君を家に誘うその口実を 探しているんだよ

 

 

 


 「あれ、こんな近かったっけ、」

 「ほんまやなぁ」

 「じゃあ、またね」

 

 


 彼女はひらひらと手を振って、僕から離れていく。

 僕の気持ちは拳にしか現れなかった

 しっかり、笑えてるだろうか

 

 

 


 「たかひろくん困りながら笑うよね」

 


 さっきの会話を思い出しながら、

 僕の頭はボーッとしていた。

 

 

 

 ふと、また彼女が振り返って

 「気をつけてね、」と手を振ってくれた。

 

 

 

 

 ああ、この各駅停車は彼女を連れ去っていくのだ。

 僕とはまったくちがう世界へ、

 僕のいない世界へ、

 

 

 

 

 「そろそろ終電かも」

 そう時計を見る彼女が、

 「またね」

 そう手を振ってくれる彼女が、

 「たかひろくん」

 そう名前を呼んでくれる彼女が、


 ついさっきまでこの街に、 いた

 そうだ、僕の大好きな、彼女が、この街に

 

 


 今度は君を追いかけて もう今日はここにいなよって
 ちゃんと言うからまた 遊びに来てよ
 もう終電に間に合うように 送るようなヘマはしない
 もうしないからさ

 

 


 「月、きれい」

 「ほんまやなぁ」

 
 「たかひろくん、ほんまやなぁしか言わないね」

 「そう?」

 「そう」

 「ほんとわたしの話に興味ないよね」


 あははと彼女は笑ったけど、

 トナリを歩いてくれる彼女に、

 目の前でビールを飲む彼女に、

 空を見上げる彼女に、

 見惚れていたなんて

 そんなことは、知らないんだろう

 


 月の明かりに照らされた 黒い髪 横顔 くちびるを
 思い出して胸が苦しくなるよ
 その全部が僕のものなら 悲しい想いなどさせない
 絶対させないのにな

 

 

 

 彼女が見えなくなる前に、決めたことがある

 今度は、

 今度は彼女を追いかけて、抱きしめて、

 「もう今日はここにおりや」ってちゃんと言うから、

 

 今度はちゃんと、言うからさ

 

 

 

 

   世田谷ラブストーリー

          ( 今日は自棄酒、なんやろうな )